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勝負の後にはお茶の時間を

番外編2 聖夜と焔と宴と

読了目安時間:約 21 分です。

 

 


注意:この話は時系列などが迷走しておりますが、暖かく見守ってくださると歓喜します。


 

 

 

普段通りの日差しが差し込み、ビルがそれをミラーコートさながらに反射する。高く聳える都市の象徴が第二の太陽としても機能していた。人々は活発に動き出し、ポケモン達は気ままに生活を営む。ゴーゴートによるキャリーシステムは常時稼働し、鳥ポケモンは少し肌寒い空を翔ける。そんなカロス文化の最先端、ミアレシティ。いつもとは少し______かなり大きな違いがチラホラと。

ストリートで構えている店の数々が、心なしか嬉しそう、かつ活気が漲っている様に感じる。ここぞとばかりに商品を推していく。七面鳥に野菜にワインに小麦粉、砂糖、更には星やモンスターボールを象ったデコレーション。その他の店も同じ様に活発な消費を促していく。

プロモーションビデオ撮影所でも期間限定のセットや衣装を取り揃え、連日人混みに溢れていた。街の顔であるカフェでも赤、白、緑のレースやリボン、小さな小太りじいさんのような置物を設置している。

至る所でのこのような変わり身。この原因は当然、年に一度の聖なる日。

今このミアレ________否、カロス________それも否。
この世界中には、『リア充の日』こと…………………………『クリスマス』が訪れていた。


 

「眠い…………………」

時は八時、場所はポケモン研究所の客室。暖房がしっかりと効いた一室で緑色のタオルケットに身を包むのは、スピードガールことエリカ。久々にミアレを訪れた彼女と某中毒(研究)者は、この聖なる日を共に祝うことを提案された結果、二日前の12月23日にチェックインしたのである。そこから起きたは良いものの、普段全力で走り回る快活な彼女でも朝には勝てないようだ。当然の如く彼女はまだ朝食を取っていない。丁度年頃の女の子らしからぬ音が胃の方から聞こえてきた。空腹に耐えきれずに、覚束無い足取りでドアまで歩いて行く。着替えるのも面倒になり、黄緑色のパジャマのまま廊下を彷徊しはじめた所を偶然発見した研究者の一人は語る。

 

『私が歩いていた時に、いきなり後ろから黄緑色の物体が現れたと思ったら博士のお客さんだったんですよ。クリスマスなのに幽霊でも出たのかと思いました』


 

 

「ふむ………これは、厄介だね」

台所近くのテーブルを挟み、椅子に腰掛けている二人の男性。無精髭を生やし、いつも通りの白衣にシャツを着ている研究所の主。プラターヌ博士が、テーブルに置かれているボードを眺めている。線と点で作られた幾らかの通路。四隅にある赤と青の二重丸が二つずつ。そして、それぞれの色に挟まれた中央には太字の円が一つずつ記されていた。その上には、ギャラドスやスピアー、マフォクシー等の強力なポケモン__________のフィギュアが配置されている。

このゲームは、『ポケモンコマスター』

この世界で一定の人気を誇る遊戯盤。従来の公式のポケモンバトルのようにプレイヤーは六体のフィギュアを選び、デッキを作る。フィギュアにはルーレットがあり、近接した相手にバトルを仕掛け、それを回すことで勝敗を決めていく。最終的に自分のフィギュアを相手陣地の太字の円、ゴールに到達させる事が勝利条件となる。

そのゲームで、プラターヌ博士を苦悩させている人物こそが……………ご存知の烏龍茶中毒者。茶器の中身を啜っている、若き研究者ヒュウガである。彼のデッキは、ギャラドスやマナフィ、ゲッコウガ等の水タイプ統一。マナフィの特性で火力を上げて、敵陣地を制圧していくものだ。一方の博士は、マフォクシーやイベルタル、ゴロンダやカラマネロで構築されたカロス地方に生息するポケモンでの統一デッキを使用していた。

しかし、序盤から水統一の鍵と言えるマナフィを2体展開したヒュウガが火力面で圧倒的な差を作り出している。その影響で博士はジリ貧となっていた。既に彼の陣地には、ゲッコウガ、ギャラドス、スイクンが入り込んでおり、今居るフィギュアではヒュウガに対して決定的な一手を打つことさえ難しい状態。冬であるはずなのに汗が流れる。冷たい空気が熱されていく。この遊戯はただのゲームではない。お互いの矜恃を掛けた頭脳の格闘技なのだ。

互いに手の内を読み合い、牽制する。この間に、バトルを積極的に仕掛けるパターンは少ない。何故ならば、逆にこちらが倒された時のリスクが大きいからだ。自分の番が終われば相手の番になる。つまり、道が開けた所を一気に攻め込まれてしまうのだ。とはいえ、そんな堅実な手段だけでは勝てない。この危機を脱するには戦闘を仕掛ける他ないのも事実。手元に置いていたカードの中から一枚を取り出す。

「じゃあ、僕はプレート『プラスパワー』をゴロンダに使おう。そのままゲッコウガとバトルだ!」

プレートとは、プレイヤーが最大6枚まで持てる道具の事だ。今博士の使用したものは、このターンの間、自身のフィギュアに30のパワーを付加する効果がある。これにより、ゴロンダは戦闘において強靭な力を得たわけだ。お互いにルーレットを回す。

赤、紫、白、青。様々な色が垣間見え、ゆっくりと回転速度が落ちて行く。最終的には、それぞれのフィギュアは白の枠に止まった。

「……やられました」

「いやー、やっと運が味方してくれたようだよ」

止まったマスは、ゲッコウガが『ハイドロポンプ60』、ゴロンダが『アームハンマー90』。本来ならばマナフィ2体分の加護を受けたゲッコウガの100ダメージが勝利する。
しかし、『プラスパワー』を使用したゴロンダのダメージ90+30=120が上回るので、ゲッコウガは気絶し、フィールドから追放された。

一度は難を逃れたが、この程度で形勢が逆転する訳もなく。その他のフィギュアで囲まれた挙句、呆気なくゴールに到達されてしまった。ヒュウガの勝利である。

「いやぁ、まいった! 流石だねぇ」

「いえいえ、初手でマナフィを出す事が出来たこと自体が運でしたから。そこさえクリアすれば、という問題ですよ」

この後に、簡単な感想戦が行われようとしていたのだが、突然の乱入者によって中止せざるを得なくなった。ドアの向こうからヨタヨタと歩き出してくる黄緑色のパジャマ。エリカが寝ぼけ眼でこちらに入り込んできた。用件は、聞かずともわかっている。

「待っててください、今朝食を作ってきますから。飲み物は、烏龍茶でいいですよね?」

「うん……………」

「では、僕も頂こうかな?」

満場一致で決定したが、博士の方は午後のティータイムで紅茶を出す事を考えていた。ヒュウガの方もそれは重々承知の上で、受け入れている。エリカは今、そんな事を考えるほど頭が回転していない。まあ、回転してても分からないのだからどうでも良いことではある。

 

キッチンへと吸い込まれていく背中を見送りながら、もう一度眠りへとつくエリカ。さり気なく紅茶をいれている博士。比較的平和な朝ではあるが、この面子においてそのような時は余り続いた試しがないのである。それは昼過ぎのことだった。


 

 

 

「キリキザン、『アイアンヘッド』だっ!」

「舞いなさい、ロゼリア………『マジカルリーフ』!」

街の数箇所に設置されたバトルフィールドの一角で、クリスマスイブらしからぬ激戦を繰り広げられている。片や、黒いジャンパーを着込んだ少年とミニスカートのお嬢様。少年の操るとうじんポケモンのキリキザンが、頭部の刃を鋭く尖らせる。その状態を保ちながら前線を上げていく所を、少女のロゼリアが追尾機能付きのエネルギー弾で援護していく。

 

「来るよ、メレシー!」

「………構えてください」

迎え撃つはエリカとヒュウガ。エリカのポケモンは相手の双方に有効打を打たれてしまうが、耐久の優れたメレシー。中毒者は特殊攻撃が十八番のウルガモスを選出していた。戦況としては若干攻め込まれていて苦しいものだ。そもそも、どうしてこうなったのか。今からおよそ十分前にまで遡ることとなる。


 

 

「ねぇねぇ、後は何を買うの?」

更に賑やかとなったストリート。膨れ上がった買い物袋を両手に引っ提げて歩く爆走少女と烏龍中毒。長い時間この状態が続いているので腕が大爆発を起こしても不思議ではない………位に窮地だ。正直このタイミングで話しかけて欲しくはなかった。だが、答えないわけにはいかないために、平然を保ちながら返事をする。

「あとは………茶葉、だけですね」

最後に残っていたのが別の品目だったら、聖夜に絶望の淵へと落とされるところだっただろう。要は唯一の生命線だ。しかし、それをも狩り取ろうとしてくる者もいる。

「えー、ヒュウガ選び出すと長いじゃん! そもそも、たくさん持ってるでしょ?」

ここまでは想定内。想定していたとはいえ、対抗手段もそう簡単には編み出せない。絶体絶命のこの場を切り抜ける方法は、ないのか。そんな時に、烏龍茶の神は味方したのだ。

「おーい! お前らー!!!」

天の助けとはこの事を言うのだろう。反対方向から前に聞いた声。その主はズバットの群れに飛び込んで、結局退却していた無鉄砲中の無鉄砲。黒ジャンにキリキザンのチョーカーがトレードマーク。イッシュ出身のカズマが、偶然この場に居合わせた。

「カズマっ!?………… 久しぶりー!!」

エリカも大きく手を振り回す。彼女には片手分の荷物しか渡していないが、その分負担も倍増している。これならば問題もない。突破口が見えてくる。その状況に、神は駄目押しをくれたようだ。

「あら、貴方達。 奇遇ですわね?」

「マ、マリー!?? いつから居たの!?」

黒髪ミニスカート兼お嬢様。突如、ヒュウガの烏龍茶を横取りした挙句そのまま立ち去っていった少女。それでいて、緑茶推し。決して交わることのない道を歩む新人トレーナーのエリカが、気配遮断に優れたアサシンの如く三人の真後ろへと待機していた。

 

 

_______まあ、一部余計なのは来てしまいましたが充分でしょう_________

 

 

「ここであったのも何かの縁です。………そんな訳でバトル、しませんか?」

 

 

 

 

以上、偶然と執着と人格によってこの火蓋が切られた次第である。なんて、それっぽく言ってみたが、単に大の大人が疲れたから腕に休息を与え、あわよくば隙を見て抜け出そうとしているだけだ。断じて格好の良いものでは無い。烏龍茶厨、略して烏厨は藁にもすがる思いで神頼みをどうでもいい所で茶濁しに使う様なうつけ者だと、はっきり分かんだね。

………閑話休題。

そんな偶然の塊のお陰で、先程の状況へと流れていった訳だ。因みにチーム分けはジャンケン。エリカとヒュウガ、そしてマリーとカズマだ。

大雑把な回想及び説明もひと段落ついたので、戦闘描写に戻ろうと思う。


 

 

相手のキリキザンが鬼神の形相で突撃してきている上に、ロゼリアが援護射撃を続けているこの状況。しかし、予めどうするかは決めている。一番に迎えるのは、エリカだった。

「『リフレクター』!」

目と鼻の先にまで迫っていた闘神との間に、薄い半透明の壁を生成する。光は刃を遮り、その本体を軽々と弾き飛ばした。当然、メレシーには大したダメージは入っていない。まだまだ余裕だ。

「さて、まだ余裕はあるのかしら?」

一難去ってまた一難。今度はロゼリアの放った『マジカルリーフ』がメレシーを包囲していた。『リフレクター』では特殊攻撃を軽減する事が出来ない。半月状のエネルギー弾は、渦巻きながら中央へと吸い込まれていく。草には炎の定石通りに。

「ウルガモス! 『ほのおのまい』で包囲網を破ってください」

指示を受け、太陽の化身が舞おうとしたのも束の間。弾き飛ばされていたキリキザンが突風の如く腕を黒く染めて切り込んできた。思わず上空へと退避させるも、技を中断せざるをえない。

「そう簡単には撃たせないぜ? もう一度『つじぎり』だっ!!」

大胆不敵に空中へと跳躍すると、重力をフルに使っての一太刀を浴びせる。あまりにも重い一撃に地面に容赦なく墜落させられた。砂埃が盛大に舞う中、更なる追撃を行おうとしている闘神。中央に向けて、勢いのままに落ちていき____________フィールドに、大穴を開けた。

「なっ………!?」

砂埃から出た痕跡も様子も無かったにも関わらず、そして切り落としてから間もない筈なのに。ウルガモスというポケモンは構造上体も大きく、羽も広がった当たり判定の広い種族。それに対して、まったく掠っていない。

それに加えて。

「ウルガモスが、いねぇ______だと?」

見えるのは、エリカのメレシーとマリーのロゼリアによる『マジカルリーフ』と『サイコキネシス』の相殺合戦。エネルギー弾を不可視力で操り、ぶつけ合うその様子のみ。カズマは、一瞬動揺していた。

もし、この隙が無ければ_____________

 

「もう、舞えましたか?」

『アァ、ジュウブンダ』

ヒュウガのその一言。脳に直接響くような別の声がそれに応答する。流れからみて、後者はウルガモス。カズマはテレパシーを使えるポケモンを初めて見たが、それどころではない。ようやく、あることに気がついた。

「! 上か!!」

もはや後の祭り。上空には、傷こそ負っているものの、最初とは明らかに何かが違う佇まいで君臨する化身の姿。それが見えた時には、キリキザンはもちろんのこと、ロゼリアでさえも吹き飛ばされてしまった。

「あなたの事です。こちらの行動よりも早く叩こうとして連撃を加えるのは分かっていました。_________最後の攻撃の余波を利用し、砂埃から脱出すれば、こちらのものですよ」

飛び上がった後に、ウルガモスは自身の能力を向上させる『ちょうのまい』を使用していた。静かに気配を消し、下で起こっている砂埃に意識が向いている間に。

「ロゼリア! そこから離れなさい!」

「お前もだ、キリキザン!!」

後の展開を予想できたカズマとマリーは即刻、各自のポケモンに退避命令を下す。ポケモン達も距離を取ろうと後ろに跳躍………出来なかった。

「ふふーん、そう簡単には逃がさないよ!」

ここぞとばかりにドヤ顔を決め込むスピードガール。その前に居るほうせきポケモンのメレシー。このポケモンは、野生の頃から一つの技から複数の用途として活用する事を得手としている。その一例こそ、岩を設置する技『ステルスロック』。その技の活用例の中で使ったのは、フィールドに岩の檻を生成する拘束技としての応用方法。マリー達が指示すると同時に建築された檻は、容易には崩れない。お膳立てをしたステージで、やる事は限られる。ヒュウガは最後の指示を出した。

「ウルガモス、『ほのおのまい』!!!」

 

大きく羽ばたき、更に高度を上げていく。丁度、岩の檻の天井付近に到達する所で踊り始めた太陽の化身。優雅に勇猛に大胆に、見る者を畏怖させる舞いに合わせて身体を取り巻く焔は勢いを増していく。それらにより檻自体も熱されて、灼熱地獄へと変貌していた。やがて焔は業火となり、檻の内部も見えない程に埋め尽くす。それをその場にいる全員が認識した直後、パタリと燃え盛っていた焔は止んだ。

 

「……嘘だろ?」

カズマが呟いたその意味。それもそうだ、自らのパートナーが弱点だったとはいえども。

一撃で、屠られていたのだから。

所々火傷が残っている薔薇と闘神は、それぞれフィールドに這いつくばり、動かない。ごく短い時間で、そこまでの傷を残す火力は低耐久では受けきれるものではない。能力を増強したあとならば尚更。

「作戦成功だね、ヒュウガ!」

「……ええ、お疲れ様です」

 

戦闘前に、予め二人は簡単に作戦を立てていた。と言ったが、作戦はほぼヒュウガが立てたものである。相手を一度分断し、相手の攻撃後の隙を突いて能力を上げる。後は、『ステルスロック』で逃げ場を無くし、『ほのおのまい』で諸共焼き尽くす、という算段だ。

 

「______にしても、なんだよソイツ! 火力が他の個体と比べても段違いだぞ!」

「私もウルガモスは始めてみましたが、『ちょうのまい』を使ったとはいえ圧倒的な攻撃力ですわ………」

その後、簡単に戦闘後の会話をしていた四人。戦闘自体は、予想よりも遥かに早く終わった。しかし、まだこの話は終わらない。

「ところで、二人はこの後何か用事でもありますか?」

ヒュウガから投げ掛けられたその問いに、カズマ、マリーは不思議そうな顔をした。

「? 特に無いが?」

「私も、これと言ってありませんわ」

この返答に、内心ほくそ笑んだ烏龍中毒者。そんな時でも表情を崩さない。崩してはいけない。

「ならば、今日ポケモン研究所でパーティでもしようと思うのですが_____________来ませn」

「ちょっと待った」

最期まで言えなかったのは、途中で妨害があったから。その声は、勿論エリカ。一瞬顔を強ばらせる鳥厨の不審な様子に、少女は確信した。

「二人を誘って、新しい茶葉を買いに行こうとしてるでしょ。………バックの裏ポケットの裏に、明らかに隠されたお金が」

「さ、さて帰りましょうか。お、お二人もどうぞ?」

哀れなり。の他にどんな言葉があるだろうか?

実をいえば、色々と言える。


 

その後の夜、研究所にて先程のメンバーに博士、こっそりと誘われていたエリカの母親を加えて、小さなクリスマスパーティを開いた。
様々な料理に、ツリーに、サンタコスをきた博士と魔法少女の恰好をしたヒュウガ。暖炉の取り付けられた小さな部屋で賑やかに過ぎていく楽しい一時。窓を見れば、丁度粉雪が地面にまぶされていた。ネオンを受けてキラキラと光るその光景は、その場にいた者達の一部になるだろう。

彼らに、新たな幸があらんことを祈り、この話を締めくくりたいと思う。

 

尚、哀れな中毒者は同情したプラターヌ博士とマリーが烏龍茶の茶葉を少しずつ取り寄せた詰め合わせを貰い、狂乱していた。

ついでに彼の症状が緩和されるという儚い願いも込めておこう。

 

 

Merry Christmas !!!

 

 

 

2017年12月25日作成
2018年6月12日更新
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